適正飲酒をしていますか?

 アルコール(AL)を適量飲んでいれば、食欲が増進し、コミュニケーションが円滑に進みます。また冠婚葬祭には欠かせないものになっています。厚生労働省の健康日本21では節度ある適度な飲酒の目安は1日あたりAL 20gです。これは日本酒約1合あるいは、ビール500ml、1本に相当します。女性や高齢者ではより少量が適度と推奨されています。また、生活習慣病のリスクを高める1日飲酒量は男性40g、女性20gであり、これ以上のALは有害使用になります。自分の健康障害ばかりでなく、家庭内のトラブル、会社での遅刻や欠勤、さらに交通事故や暴力や傷害事件など社会的な問題も引き起こします。もしも飲酒による健康障害が心配でしたら、さっそく当センターへ相談をしましょう!決して「心の病気」であるアルコール依存症(ア症)にならないように早期発見・早期治療に努めましょう。

 当院は、平成30年10月1日に、名古屋市からALルの健康障害に関する専門医療機関および治療拠点機関に選定され、ALの健康障害に対して幅広い支援を行っています。早期発見・早期治療から再発予防の治療を行い、皆様の健康な暮らしを応援しています。

アルコール依存症になると・・・

 ALを長期間、多量(AL 60g/日 )〜大量(AL 120g/日)に飲むとア症になります。一般に日本酒を「5合5年、3合10年」飲むと依存症になります。ア症になると、肝障害など身体の問題、家族内のトラブル、会社でのミスや トラブルなどのAL関連の問題が起きます。このようなAL関連問題が起きても、酒を止められません。たとえ一時的に酒をやめてもしばらくすれば再飲酒を繰り返します。つまり、一旦依存症になってしまうと、自分が依存症であることに気付かないままに病気は進行して死に至る、恐ろしい病気です。

 ア症かどうか、簡単な4つの質問からなるケージ(CAGE)テストや10の質問からなるオーディット(AUDIT)テストがあります。現在の飲酒が適正かどうか参考にしましょう。
 

(Cut down) 飲酒量を減らさなければと感じたことがありますか?
(Annoyed by criticism) 他人にあなたの飲酒を注意されて、気にさわったことがありますか?
(Guilty feeling) 自分の飲酒について、悪いとか申し訳ないと感じたことがありますか?
(Eye-opener) 神経を落ち着かせたり、二日酔いを治すために迎え酒をしたことがありますか?
 

* 1項目該当は「危険な飲酒」であり、節酒指導が必要
* 2項目以上該当はアルコール依存症を疑う
検出感度は70〜96%、特異性は91〜99%

アルコールによる身体の障害とは・・・

 ALの有害使用を慢性に続ければ健康障害は全身に及びます。とくに消化器系はALが直接通過して代謝を受ける臓器であり、中枢神経系はALに影響を受けやすい繊細な臓器です。

 先ず、消化器系では、ALが直接通過する口腔、咽頭、食道、胃、十二指腸が障害を受けます。食道は逆流性食道炎、胃は急性胃粘膜病変(急性胃炎)や消化管潰瘍などが起きます。AL性肝障害は脂肪肝から肝炎、そして最終的には肝硬変に至ります。また膵炎もおき、急性の膵炎の約40%が、そして慢性の膵炎の約55%がAL性であると言われ、飲酒を続け炎症を繰り返すと慢性膵炎に移行します。また膵臓の障害により糖尿病を併発します。

 中枢神経系の障害では、ビタミンの欠乏によるウェルニッケ・コルサコフ症候群(ビタミンB1欠乏)やペラグラ脳症(ニコチン酸欠乏)が起きますが、適切な治療により回復します。また物忘れなどを示す健忘症候群や飲酒が続けば認知症になります。さらに転倒による頭部外傷にも注意が必要です。

 実際に一時期な禁酒をしても再飲酒をするとALの毒性が急激に出現して、機能障害を一段と悪化させます。ですから節酒や禁酒ではなく、断酒に踏み切ることが酒害からの回復には欠かせません。

アルコールによる心の障害とは・・・

 ALの急性の作用は麻酔剤のように中枢神経に抑制的に作用します。まず高次の大脳機能が抑制され、感情脳である大脳辺縁系が脱抑制されて、多幸感、多弁、ほろ酔い気分、泣き笑い、怒りなどの感情反応が出やすくなります。また運動のバランスに関係する小脳も抑制され失調性歩行など運動障害がでます。さらに飲酒をすれば脳幹部の機能が抑制され意識障害、失禁、さらに呼吸の抑制が起きます。

 ア症になると、深刻な心の問題が生じます。ALの離脱症状で不安・イライラが増して、些細なことで怒りやすく、ゆううつになります。うつ状態になると気力ALが手放せません。ALの色々な問題も次第に多くなり、自分に対しても嫌気がさして希死念慮が高まり、飲酒により衝動性が高まる結果自殺に走ることがあります。いわゆるAL―うつ病―自殺の「死のトライアングル」といわれ悪循環に陥ります。また不安・抑うつ―猜疑心・被害感―怒りの負の連鎖が起きます。

 さらにア症を治療しないと健忘症候群から認知症に至りますので、断酒して健康を取り戻すことが欠かせないでしょう。

アルコール依存症の診断と治療とは・・・

 ALの診断は、AL関連の問題がどの程度があるのかを本人や家族から聞き、CAGEやAUDITの結果を参考にしながら、ICD―10に基づいて行われます。さらに振戦や手足のしびれなどの身体症状、血液・生化学所見、脳波、頭部画像などを参考に担当医が総合的に診断が下され治療方針を決められます。

 ア症の基本は断酒ですが、本人の意見や状況も考えて節酒から治療を始めることもあります。また外来か入院かの決定も行なわれます。外来では『外来教育プログラム』が用意され、入院では『入院プログラム』が用意されています。このような選択肢から、本人や家族の意見を尊重しながら、最終的な治療方針が決められます。

 断酒治療では、まず離脱症状への対処、それに合併症に対する治療もあわせて行われます。離脱期が過ぎてからは、断酒を維持するためにストレスへの対処、抗酒剤や断酒補助剤、自助グループへの参加などの断酒を継続する学習が行われます。

 また、入院中には内観法、動機付け面接、集団精神療法などを行なわれ内省を深めて、退院後のメンタルケアに役立てる治療がなされます。

アルコールの家族療法とは・・・

 ALは本人ばかりでなく、家族も巻き込みます。その結果、家族はALの問題が解決できない無力さや絶望感などで精神的に追い込まれ、本人共々疲れ果てます。ア症の特徴はそもそも依存症という病気の存在が分からないことです。病気であることが分かれば、本人も家族も治療への道が開かれます。

 本人は精神科への受診には大きな抵抗があり、自ら進んで受診することはまずありません。AL問題でお困りの家族は、外来で家族支援のプログラム『YaAF(ヤーフ)家族教室』があります。本人のAL問題で心身を病んでおられますので、まず家族の方が健康に、そして幸せになってもらい、それから本人もALの専門治療を受けられるプログラムが組まれています。

 また本人が入院されている場合には、毎週金曜日に家族会が用意され、ビデオ、断酒会の家族テキストなどを用いた学習会が行われ、断酒への道すじを学びます。

アルコール依存症の支援とは・・・

 ア症の方の支援はとても難しいと思われ勝ちです。いわゆる「お酒に飲まれている」状態では、話しは相手から一方的になり話し合う状況ではありません。嘆いていてもAL問題の解決に繋がりません。このようなときに「PIUS」のテクニックを使うと良いと言われています。簡単に紹介すると「Positive(肯定的に)」は、相手に対して,問題点の指摘からではなく,本人の良いところ,好ましいところを述べることから話を切り出すことです。誰でも注意されたり、非難をされれば引いてしまいます。「“I”message(“私”を主語に)」は、「あなた」という対決的,批判的,指示的なニュアンスをもつ二人称を主語にした文章でなく,「私」という一人称を主語にした文章であなたの気持ちを伝えることです。「Understanding(理解を示す)」は、本人が置かれた立場に理解を示すことです。辛くて酒でも飲んでいないとやっていられない状況、酒だけが唯一の慰めになっている状況を少しでも理解しましょう。「Share(責任を共有する)」は、あなたが問題の責任の一端を背負い一緒に問題に取り組む姿勢を示すことです。

 しかし、最終的には飲酒問題は本人自身がどうするのか、どうしたいのかを決めなくては支援もできません。本人の依存を助長するのではなく、自立を支援することしかできません。ア症では自立を促す厳しい愛情が欠かせないと言われる通りです。